子供たちに命の大切さを伝えたいとんぼである、ごきげんよう。
すべての命は平等である。道徳の授業なんかで言われそうな話だが、小さい虫達の命を軽んじてしまう場面はいくらでもある。私がそう。
それでも、自分で面倒を見ると決めたのなら、命を守る責任があるだろう。
クワガタを貰った話
つい数日前に、突然親戚のおじさんが我が家にやってきた。畑でクワガタを見つけたから、息子にプレゼントしようと考えてくれたようだ。
しかし、我が家に虫を育てる環境はない。育てたこともないから知識もない。
正直言って、ゴキブリみたいな足をした虫全般嫌いだし、育てるのめんどくさそうだし、何よりクワガタもかわいそうだから自然に帰して欲しい。
と思いきや、息子はそれなりに喜んでいてね。
「オレが面倒を見る」
ここまで言うなら、いいだろう。何の文句もない。ちょうどメダカ用の小さな飼育ケースがあったので、そこにクワタガいれて、おじさんからあわせてもらった果物もいれて……
息子がつけた名前が、つるお。つるつるしてるから、ツルオ。
息子は何度もケースから出して、触って、歩かせて、遊ばせていた。
妻からは「あまり触りすぎると、ストレスで早く死んでしまうよ」と注意されるが、それでも息子は何度も何度もツルオを出して遊んでいた。
夏休み真っ盛りで私はもはや余力が残っておらず、子供たちの相手や食事の準備で精一杯。クワガタに意識を向ける力はないため完全スルー。
すると、もらったのが木曜日の夜なのに、日曜日になるまでせまい飼育ケースに果物一つと葉っぱ一つ。
ちょっとかわいそうすぎないか、これなら外に帰した方がいいと妻に怒られる息子。そうなって、初めて環境を整えようという話に。
息子が自分で小遣いだして、床に敷く土や棒を買うと言うから、ホームセンターまで買いに行った。
時期的に人気なのか、売り切れが多くていくつかお店をまわって。やっと見つけても、意外とクワガタ飼育用品は高い。半分くらいは私の小遣いで出してあげた。
で、日曜日には結局買い出しだけで何もできず、月曜の朝になって。悲劇が起きた。
許されない
寝起きの息子が悲しそうに言う。
「パパ、ツルオが死んじゃった」
あぁ……まじか。こんなに早く死ぬのか……昨夜、私が一人で環境整えればよかったか…………
重たい頭と体を罪悪感が蝕んできたところで、朗報が。
「あ!まだ生きてるみたい!」
おぉ、それはよかった。かろうじてだが、まだ動く。もしかしたら助かるかもしれない。
急いでクワガタの土(マット)やゼリー、捕まり棒をセットして、ほとんど動かないツルオを見守っていた。
子供たちには朝食をだし、ツルオの様子を見ていたところ。息子が言った。
「ツルオ、序盤で死にかけてるねw」
……はぁ?
何だその言い方はと思って。一旦はスルーしたんだけど、ふつふつと怒りが湧いてきた。
「序盤で死にかけているって君はヘラヘラしてるが、ツルオはあんなに狭いケースにいれられて、何度も何度も触られてストレスもたまってたんだろ。外にいたら今も元気に生きてるよ。死にかけているのはツルオが悪いのか?死にかけてるんじゃなくて、私たちが殺してるんだろ」
低い声で淡々と指摘し、息子は黙って聞いていた。少しは自責の念を持ってくれるかと思ったら、まったく。ゼロだ。
注意して1分も経たず、息子が笑顔で言った。
「うちでウサギを飼ってる理由がわかった!姉が欲しいっていったからだ!だってほら、姉の誕生日に来たでしょ?」
はぁ?今、お前が欲しいと言ったツルオは死にかけてるんだが?何ヘラヘラしてんだ?
イライラしてスルーしてたら、さらに重ねてきやがる。
「あ、そうだ!昨日のツルオのマット買った時のお釣り返して!」
そう言って物欲しそうな顔して財布を持って走ってきた息子。
……
お前、反省してないだろ。
好奇心だけで面倒も見ず、責任を全うする気もない。さらに失敗から何も学ぶ気の無いその態度は絶対に許されない。
あまりに酷いので、きつめに注意する。どういうつもりだよと。
すると、息子はショックを受けたようで部屋にこもって泣いていた。
言いすぎたか、謝ろうかとも一瞬考えたが、決して譲ってはいけないこともある。ツルオは命を失いかけているんだぞ。泣けるだけ幸せだよ。
5分ほど泣いていた息子は部屋から出てきたので、一応は私から歩み寄った。
面倒を見ると君は言ったよね。面倒を見るってのはつまり、命を守るということだ。
君はお金もあまり持ってないし、移動手段もないし、クワガタの知識もなかった。それでも、本当にツルオを守りたかったのなら、色々とやり方があったと思う。
パパやママにお願いしてクワガタを詳しく調べてもらうとか、公園なんか行かずにツルオの買い物を優先するようにお願いするとか。
それでも知識がなかったから仕方がない部分もある。私もクワガタのこと何も知らないし、こんなに早く弱るなんて知らなかった。
でもそれはツルオに関係ない。狭いケースの中に閉じ込められて、強いストレスで苦しめられてる。ツルオは何も悪くない。
悪いのは自分たちなのに、ツルオを見てヘラヘラしながら「死にかけているw」ってあまりにひどくないか。
今回は我々の無知で申し訳ないことをした。それはもう元に戻せないけども、せめて何かを学べよ。ツルオの存在から、何かを学べ。
そうじゃないと、あまりにもかわいそうだろ。
といった話をしながら、なぜか涙が出てきて。息子も泣いていたが、効いたのかどうか。
復活して欲しいが……
この話をしたあとは、息子もあれやろうこれやろうとツルオのために考えて動く姿勢が見られた。
が、午後にも似たような発言があり、再度注意した。7歳児に虫に共感させるのは無理があるのか?わからん。
これ以上なんと言っていいやら。
ツルオに関しては、実際のところ暑すぎでもない。湿度もある。ご飯もあった。何で弱ったのかといえば、やはりストレスかなぁ。
死んだと思ったクワガタが復活する事例もあるらしいので、クワガタにとってベストな環境を作って、復活しないかと様子を見ている。
……おそらく助からない。でも、できることはやっておこう。
広い大自然で生きていける存在を、エゴで狭い世界に閉じ込めてる。それならせめて、絶対に守るという責任感を持つのが最低限のルールだろう。
「息子が面倒を見るから」と我関せずに徹してた私も、無関係ではない。本当に申し訳ないことをした。
親に余力がないのだから、おじさんにクワガタは今は無理だと断るべきだった。人間関係も気にしてしまったんだよ。あーひどい。
ここまで読んでいただき感謝。
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