土日はブログを書く時間がないとんぼである、ごきげんよう。
とりあえず急いでいるが、この話は急いで書けないかもしれない。かなりの熱量が入ってしまう可能性がある。
それくらい面白い池井戸潤小説の話。
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池井戸潤というジャンル
池井戸潤という小説家は、もはや池井戸潤というジャンルを作ったと言っても過言ではないほどの活躍ぶり。
おそらくは皆さんもどれか一つは名前くらい聞いたことがあると思う。
半沢直樹
花咲舞
下町ロケット
陸王
民王
ノーサイドゲーム
読んでたらどれもこれもメディアミックスで映像化してて驚く。
確かに人気があるのもわかる。
わかりやすい悪党がいたり、大企業VS中小企業というわかりやすい構図であったり、卑劣な手を使って丸め込む胸糞展開があり、それでも諦めない主人公の逆転劇が必ず用意されてたり。
水戸黄門(とはちょっと違うけど)的な、わかりやすい悪を打ち倒す物語として非常にスカッとする話が多い。
逆に序盤から中盤にかけては胸糞展開もある。
こんなやつ本当にいる?と聞きたくなるほどのクソみたいなキャラクターもいるが、最終的には因果応報になるとわかってるから最後までいける。
これが池井戸潤作品だからこそ信頼して最後まで見られるというのもあるだろう。最後にはやってくれるんだろう?という期待が常にある。
例えて言えば半沢直樹やよね。わかりやすい倍返しだから。
ただいくつか池井戸潤小説を読んでいくと、半沢直樹が異端なキャラクターであると気づく。全部読んだわけじゃないけれど。
あそこまで徹底的に、まさに倍返しで叩き潰すキャラは珍しい。ドラマで視聴率40%取るだけであって数ある小説の中でも半沢直樹はかなり尖ってる。
怒りの熱量がすごくて、怖いなと思うこともあるくらい。
「基本は性善説。だが、やられたら倍返しだ」
この言葉通り。
他の主人公は襲い掛かる火の粉を払って筋を通して勝つが、半沢直樹はさらにそれ以上の怒りを持って死体蹴りをするレベルまで叩き潰す。
その辺が魅力ではあるんだろうけど。
金も大事だが
作品群を読んでいくとよくわかるのが、金よりも肩書きよりも大事なものがあるというメッセージが込められている。
いやもちろん金は必要だ。ほとんどの小説に資金繰りの話が出てくる。銀行とのやりとり、融資の話、売上減で苦しむ話。
下町ロケットで主人公が言っていた。(原文ママではない)
「仕事は二階建ての家みたいなもんだ。一階部分は生きていくための金を稼ぐこと。2階部分は夢だ。金を稼いでも夢がなけりゃつまらない。夢があっても金がなければ食っていけない」
下町ロケットには、金金金という社員を説得するシーンがよくある。
この事業はリスクが高すぎる、大した儲けにならない、我々がやる意味がない!!そう反対する社員たちと、夢見る社長の対立があって。
少しネタバレになるが、下町ロケットは下町の工場でロケットの部品を作ることになる物語である。
本来は小型エンジンを開発する工場でロケット部品を作る。ある種バカげた発想で社員が反対する理由もわかる。
でも実際に自分らが作った部品がロケットに採用された時、それは社員にとっての誇りになった。自分達が作ったものがロケットに使われ、宇宙にいくのだ。
ロケットに採用されるほどの品質の高い部品を我々は作っている、これはロケット品質だ!!
これが社員全体、また会社にとっての精神的な支柱となる。つまり、自らの仕事に対する誇りだ。誇れる仕事をした社員は皆嬉しそうである。
だからこれが2階部分の夢の話やよね。
価値観の変遷
ここで一つまったく別の本を紹介したい。
この本では過去、労働者層にどのような本が好まれてきたかが書かれている。日本社会の読書の変遷というか。
これを見るとわかるのは、現在のコスパやタイパ、効率重視の考え方、また科学的な実証を優先する考え方が決して普遍的なものではないということ。
世界で求められているもの、テクノロジーの発展や社会思想や生活環境の変化など、現在の人類(日本人)にマッチした思想であって、決して唯一の正解ではないということ。
今後も我々の価値観は変わっていく。もしかしたら一周回ってまたコスパの悪い人との繋がりを求める社会になるかもしれない。
何が言いたいかというと、社会的な流行の思想に惑わされることのない、自分なりの普遍的な考え方を持つことが大事なのかなと思う。
確かに金は大事だ。人間関係もめんどくせぇ。1人でいい。繋がりなんて不要な時代であり、それが許される。
それでも自分にとって大事なものがあるはずだ。信頼できる仲間、愛する家族、数字にすることができない関係性、面倒で他人から見ても価値がないが譲れないもの。
効率はまったく悪いけど、笑える楽しい人生と言うのかね。
そういう人生も確かにあるな、と学びました。
おすすめをざっと
では最後に池井戸潤小説を10冊以上読んだ中でのおすすめをあげていく。
まずはもちろん半沢直樹シリーズ。
銀行員として働く半沢が銀行内の陰謀と戦うストーリー。倍返しのやつ。半沢さんができる人すぎてかっこいい。
1~2巻がドラマシーズン1で、2~4巻がドラマのシーズン2のベースになってる。
5巻のアルルカンはまだドラマ化されていないのでドラマ視聴済みの場合は5巻だけ読んでもいいかも。ただミステリ要素が強めかな。
続いて上でも少し書いた下町ロケット。
仕事とは何か?ということを深く考えさせられる作品。池井戸小説によく出てくるワードで、
「お前は霞(かすみ)でも食って生きていけるのか?」
というのがある。
下町ロケットシリーズは巻を追うごとにちとドラマティックすぎるというか、キャラが記号化しつつある感じもする。
どこか夢を追いすぎてバランスを崩してる嫌いもある。
それでも仕事には、夢や社会貢献といった金だけでは語れないものがあると教えてくれる物語。ドラマは未視聴なのだが、ドラマで見た方が映える作品かも。
続いて陸王。
老舗の足袋屋の社長さんが、ジリ貧な会社を救うべくランニングシューズ業界に殴り込む物語。
この社長さん、他の小説の主人公と違って非常に頼りない。親からの社業を継いで新しいことをやらずに長年やってきたのもあり、どことなく動きも遅い。
しかしアイデアも湧かず資金繰りにも苦しみながら、それでも粘って粘ってシューズを開発するという社長の成長と人情味溢れた物語。
これはもう無理だろと、読みながらこちらが諦めるくらいの逆境が続く。ぜひ読んでほしい。
そして空飛ぶタイヤ。
ある運送業者のトラックが脱輪事故を起こして、そのタイヤが通行中の母子に衝突。母親が死亡する事故になる。
原因はトラックの整備不良であると指摘されて愕然とする社長だが、よくよく調べてみると自社の整備不良の可能性が低いことに気づく。
もしやトラックそのものに欠陥があったのでは?
しかし社会的にはすでに人殺し会社の社長である。自社のせいではないと主張することが余計に火に油をそそぎ、遺族も怒りに震えて訴えられる。
そんな話。
これ、長いし胸糞展開が続くのであまりオススメしないが、読む価値がある本。実話をベースにしてるらしい。
PTAの話など、子供が絡むと胸がえぐられるようだった。
最後に民王。これ今読んでる最中だが。
だいぶ毛色が違ってて、女好きの総理大臣と堕落した大学生の息子の人格が入れ替わるというコメディ作品。
漢字を間違えまくる総理の答弁など、序盤から笑えるのでおすすめである。
ただ他の作品とまったく雰囲気が違う。こういう異色のコメディも書けるのか。池井戸潤先生の才能の幅がすごすぎない?
ここでは紹介しないがミステリのハヤブサ消防団なども、読んでると別の作者かなと錯覚するほど。ピカソみたいな人だ。
価値観は一つではない
様々な本に触れて感じることがある。
社会的な価値観に縛られるのは馬鹿らしい。
もちろん社会的な動物なので何もかもに反発しては逆に生きづらくなるだろうが、過度に社会に適応する必要もない。
生きていけるだけの衣食住さえあるのなら、少しは夢を見てもいいかもしれない。自分を誇れる人生を歩んでもいいかもしれない。
要は社会的に讃えられる人生よりも、自らを讃えられる人生の方が楽しそうね、ってことだ。
まあこれも唯一の正解ではないか。社会的な成功こそが幸せに直結する人もいるはずだから。
以前はフィクション小説なんて読んでも意味がないと思っていたが、価値観が変わるのならばそれは一般的な読書と何ら変わらない。
読んだ後で見える世界が変わる。それが読書の価値だから。
おしまい。
ここまで読んでいただき感謝。
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