まだ幼稚園だった頃の娘の話。
ステップファザーとなった私が困惑したことの一つに、
「娘が発達障害だと誰かに伝える時はどうすればいいのか?」
ということがある。
誰か、と書いたが主に”雰囲気から察する”ことができない子供がメインである。
思い出されるのは、手を繋いで娘と幼稚園に登園していた時の話。まだ私がステップファザーになりたての頃の話だ。
朝に娘と幼稚園に向けて歩いていると、小学生の女の子が隣を通り過ぎた。その女の子は毎朝、
「おはようございます」
と私たちに声をかけてくれる女の子で今まで何度か顔を会わせたことがあった。
大体挨拶して終わりなのだが、この日は娘は挨拶せずにすっと手を差し出したのだ。
その女の子はその手を見て何を思ったのか、な、なんと、娘と手を繋いで歩き出したのである。
おい、マジか!手を繋がなくていいから先に行ってくれ!
私はパニックになった。
小学生の女の子と一緒に並んで話すことなんて何もないし、一体どうすればいいのかわからない私はテンパりにテンパった。
娘にどう接していいかすらわからない私が知らない女の子と!?そんな馬鹿な!
そして手を繋ぎながら歩く女の子は、淡々と娘に話しかけた。
「いつも朝早くて偉いね、今何歳なの」
いい子じゃないか。お姉ちゃんキャラが板についてる。素晴らしい。そして私は娘がどのような反応をするか見ていた。するとその反応は……
ガン無視である。
うひー、やめろー何か答えろー!と焦る私。顔は引きつり苦笑いをするしかない。
そして代わりに私が
「今幼稚園生だよねー?」
と答えてフォローした。これが精いっぱいである。
その後なんとか私はその女の子と微妙な会話を繰り広げた。
しかし、
この女の子は一体いつまで手をつなぐつもりだ?!まさか学校まで一緒に行くつもりじゃないだろうな!?
と恐怖を感じていたら、大きな信号のところで「じゃあまたね」と走っていってしまった。ほっと一安心である。
……って完全にコミュ障親子じゃないか。笑えない、笑えないよ。
とにかく、娘が声をかけられても完全に無視をしたときに、一体どうフォローしていいかわからなかった。
知的な発達の遅れを伴う発達障害の娘だが、見た目は健常児と変わらない。どういえばよかったんだ?私に何ができたのか?
悩みに悩んだ結果、それからは朝の登校時間を5分ずらしてその女の子との接触を避けたという武勇伝である。
そしてもう一つ。
娘はいつも登園中に出会う子達に大声で
「おはよーござーまーしゅ!」
と積極的に声をかけていて、毎朝会う人達にはそこそこ人気があった。人気と言うよりは、毎日大声で挨拶しながら歩いてるから目立っていたのだ。
「あの子いつも元気でかわいいねー」
と、小学校高学年の女の子たちの声が聞こえるくらいには人気だったろう。
だが問題はここからだ。
幼稚園に通って半年くらいから段々と娘は認知され始め、幼稚園卒園間近になると毎朝のように出会う女の子たちは娘に近づいてくるようになり、
「おはよー!!」
と声をかけてくるのだ。
娘が機嫌がよかったら
「おはよーございましゅー!!」
と挨拶を返して
「きゃー!!!かわいいー!!!」
なんて盛り上がったりする。
だがそうじゃない。そうじゃないのだ。
私が恐怖したのは機嫌や体調がよくないときだ。
女の子たちが走ってきて、
「おはよー」
といってきたら、どうだ。一度目を合わせた上で、ガン無視である。
お、おい!お前いつも笑顔で挨拶してるじゃないか!がんばれよ!!!!
という私の思いもむなしく、娘は無視してすたすた歩いていってしまうのだ。
「ごめんねー」
と一言だけ私は告げるが、本当に申し訳ないなと思うのである。
これも結局私の保身のためであるが、朝っぱらからお互いに気分がよくないのは確かである。
そしてまた別のある日。
上でも書いた通り、娘は見た目は普通である。挨拶の声が大きかろうが、毎朝出会う子たちはまあ少し変わった子だと思っていたようだ。
ある朝に一番娘を気に入っているっぽい女の子が走ってきて、
「ねー、名前なんて言うの?」
と聞いたのだ。
それに対するうちの娘の答えはこうだ!!!!
「ごさい!!!!」
手のひらを女の子の前に突き出してそう宣言した!
……いや、年齢は聞いてないし、そもそも君は六歳だし……と突っ込みをいれる間もなく、女の子は反応した。
「え、ごさいって名前なの? え?ごさい? なんて言ったんですか?」
え、ああ、いや、どうだろね。
そうしてパニックになった私は笑ってごまかし、
「よっしゃ、娘!行くぞ!じゃあね!」と走って逃げたのだった。
という武勇伝である。うーむ、我ながら頑張ってるな。
さて、このような恥を晒して一体私が何が言いたかったのかというと、一体娘のことを相手になんて説明していいのかが全く分からないということだ。
特に子供相手だと、相手がわかってんのかわかってないのか、何と言っていいやら。
かといって、
この子は障害児だから話はできないよ、って言うかね?
しかしそれは娘に失礼じゃないか?
逆に本当のこと言わないのも娘のことを恥じているようで嫌だし、一体どうしたらいいんだと悩みに悩んだ。
そのことを相談した妻からのアドバイスはこうだ。
「普通に”この子は話すのが苦手なんだよー”って言ったらいいじゃん」
だそうだ。
ごもっともである!
ま、まあ今では多少はフォローできるようになったぞ。過去の話さ。
見た目では発達障害であるとわかりにくい娘。
遊具で幼児の顔を踏んづけて親に嫌味を言われたり、スーパーで他人のカートを押し出して「触らないで!」とおばちゃんにマジギレされたりと色々と苦労しているのだ。
だからこそ、親は堂々としていたいもんだな。
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