結婚する数年ほど前、ある学校に通っていた。
そのクラスには様々な年齢の人がいて皆それなりに仲良くしようと努力していて、その中で提案があったのが、勉強会だ。
休みの日にも皆で集まろうという話になり、私も「いいですね!そういうの好きですよ!」
と笑顔で大賛成した上で行かないことにした。
ただ断れなかったのだ。ひきこもり上がりのコミュ障なめんなという話である。
その後休日の度に勉強会があったが私は一度も顔を出さなかった。
ある女性からの勉強会のお誘い
ある時、輪の中心にいる当時年上の女性から二人での勉強会をしないかと誘われた。二人で。
面倒見のいい女性で何度も話はしていたので、特に不自然な流れではなかったと言っておく。
「勉強会こないけど、大丈夫?今度教えようか?」
そんな感じのありがたいお誘いだったが、当然のように断った。なぜなら誰かと仲良くしようなんて微塵も思っていなかったからだ。
それからも何度か誘われて断り続けても、何度も何度も誘われる。
学校で顔合わせる度に、
「大丈夫?一緒に勉強した方がいいんじゃない?」
そう声をかけてくるのでさすがにもう断りきれない状況になり、これも勉強かと応じることにしたのだ。
待ち合わせの違和感
待ち合わせは学校終わりに近くのファストフード辺りかなと思ったら、子供がいるため早い時間は出られないという。
また勉強するなら静かな場所がいいと、個室居酒屋の指定があった。
夜の21時に。
当時の私は大人の男女が二人で夜に会うことに何の疑問もなかった。ひきこもり経験が長すぎて人付き合いの経験自体がほとんどなかったからだ。
男も女も別に同じ、夜に会おうが昼に会おうがそもそもその気がないからどうでもよかった。
ただ一つ言えば、その女性に何の興味もなかったわけではない。その女性には障害を持つ小学生の息子がいたのだ。
未来の私に発達障害の娘ができるなんて想像もしていなかったが、興味はあったのだ。
「障害児を持つ母親ってのは、一体どんなことを考えているんだろう」
語弊があるかもしれないが、障害児をもつ親は普通の母親とはおそらく違うだろうと考えた。
納得できないこともあったろうし、思い悩むことも多いだろうし、それでも元気に活動しているこの人は、何をどう考え、どのように成長してきたのか。単純に興味があった。
勉強もいいがそういった話も聞くのもいいなと、私はその指定のお店へのこのこ出ていったのだった。
そして待ち合わせ場所に現れたその女性にどうしても一つ気になることが。
なぜか超絶ミニスカだったのである。
いつも学校では普通の格好しているのに、なぜ今日に限ってミニスカ?いや、短すぎでしょう。絶対おかしいよ。
だが現実というのは難しいもので、それを指摘できる空気ではないのだ。
困惑しながらもスルーして店内へと向かった。
彼女の奇行
テーブルを挟んで向かい合わせに座り、飲み物を頼んでいざ勉強開始!と思ったら五分も経たずに女性は言う。
「離れて声が聞こえにくいから隣に座ろうね」
と私の隣に移動してきたのだ。
はぁ?
ここらで、さすがになんだこいつ、と思い始めた。
だが相手は年上の先輩で、もっともらしい理由もある。断る理由も思いつかずいつの間にか私の隣に座られてしまった。
彼女の奇行はそれだけでは終わらないぞ。
なんと隣に座ったその女性が私と腕を組みベタベタ触ってくるのだ。もうこれでもかってくらいに、ベタベタと。
な、なんだこれは……と困惑しながら、なんとか話を勉強に戻そうとした。
そんな私にとどめの一言がこれだ。
「ねぇ、目を見て話してよ」
ここまで来てようやく察する。
お、おい、これってまさか……誘ってないか!?
夜に個室の店を指定し、超絶ミニスカを履き、私の隣に座り、ベタベタ触り、目を見て話せというこの女。
これもう、完全に誘ってんじゃん!
それは明らかだった。
これが美人局か!?と思いながらも、誘われてると察知してからは苦笑いするしかない。
私はそんな気はゼロだったし、この女性も全く慣れていない様子。恥じらいが明らかに見えて、これ以上どうやっていいか攻めあぐねているようでもあった。
私だって、まさか「誘ってますよね?」と指摘もできない。
翌日からも学校で顔を会わせるのだ。どうにかして先輩である相手に失礼にならないように、誘われているという事実を亡き者にせねばならない。
私にできるのはお茶を飲みながらはぐらかすことだけだ。
「勉強に集中しますか!」
とか何とかのらりくらりとひたすらノートを写させてもらった。
勉強会が終わって
その後もしつこいアプローチはあったが、一切相手をすることなく一時間程で無事帰ることに。
そしてお店から出て、これはこれでなかなかできない経験だったなーと私はご満悦だった。
「とても面白い時間でしたね、かなり勉強になりました。ありがとうございました!」
と握手をして帰る私なのでした!
「ちょっと待って!」
そう、ここで話は終わらない。女性からストップが入ったのだ。
そして突然泣き出す女性。
「お家に帰りたくない。旦那にDVを受けている、怖い」
そう言って、店の駐車場で泣き出したのである。
……おいおい、私にどうしろってんだ。
話を聞いてみると、最近殴られて救急車で運ばれたとかとにかくお家が怖いとか、そんな話をぽろぽろ話してくれた。
話はちゃんと聞いた。聞いたが、私には真偽がわからない。
学校で少し話す程度で、友達でも何でもない私に何を求めてるんだとただただ困惑するだけである。もはや君の信用度は地に堕ちているというのに。
確かに少し頭をよぎったよ。
「こ、これってドラマとかだと、そのまま一緒に車に乗り込んで朝まで僕が守りますパターンじゃね?それが男じゃないか?」
10代の私であれば何をどう判断すればいいかわからずに、流れで一緒に朝まで過ごしてしまっていたかもしれない。
しかし私は成長していた。
何で警察に行かないんですか?私にどうしてほしいんですか?今後どうしたいんですか?私に話す前にやることあるんじゃないんですか?今子供はどうしてるんですか?
とにかく状況を把握し、今後どうすべきかという方針をたてるのが最善だと判断。よって質問攻めをすることにした。
しかし相手は黙って泣いてばかりでまともな返答がしない。
こりゃ無駄な時間だなと判断して、
その女性を駐車場に置き去りにして帰宅することにしたのである。(どどん!)
どうすればよかったのか?
というのが数年前の私の武勇伝だ。
今振り返っても、しっかり自分を持っていて誇らしいな。うんうん。
ただ、いまだにどうするのが正解だったのかはわからない。私の対応が鬼畜だと思う人もいるだろうが、あの時の私に何ができただろうか。
ちなみに彼女は車で来てたので帰りは問題なかったはずである。
翌日、別室に呼び出された時は、しっかりとスマホで録音をセットしてから会話した。
……
それから数年が経ち、私は結婚して二人の子供ができた。そして一人は重度の発達障害である。
その娘を特別支援学校へ送迎した朝に、なんとその女性を駐車場で見つけたのである。
彼女の子供も同じ学校に通っているようで、車で送迎しているようだ。
げ!あの女じゃん!
と、反射的に私は隠れたがおそらく相手は気づいていないだろう。私が隠れる必要ないよなーと思いながらも、隠れてしまうのは何故だろうか。
それはきっと、もう関わりたくないからだ。
この女性にも色々あったのだろう。
私みたいな世間知らずのクソガキを誘わなければならないほどに追い込まれていたのかもしれないし、お金に困って美人局に走ったのかもしれない。
DVの話も嘘つけこの野郎と思っていたが真実はわからない。
本当に世の中には色んな人がいるもんだなぁと、 そして世間は狭いなと実感した体験談なのでした。
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